やったらできたこと
掲載日:2013.01.27
降り積もった白い雪の山を見ていたら、思い出しました。雪が白くなかった時代があったことを。1980年代のことです。
街の中や道路の脇に積もった雪は、黒いもので汚れていました。ぽちぽちと黒いどころではなく、どろどろに近い状態。それは「車紛」でした。
凍結した雪道を、車が滑らずに安全に走るために開発されたスパイクタイヤ。タイヤのゴムに鉄のピンが埋め込まれ、そのピンが路面の氷をを引っかいて走ります。滑り防止効果が高く、70年代に急速に北海道に普及していました。
ところがそのピンが、積雪のない道路では路面のアスファルトを削り取ってしまうのです。道路の傷みは激しく、削り取られた粉は車紛となって空気中に漂い、目や鼻や喉の健康被害を引き起こし、黒く街を汚しました。
車にこびりついた汚れ、転んでついた手や衣服の汚れ、イガイガする目や喉と、思い出しても不快です。当時、ハードコンタクトレンズを使っていた私は、かなり泣かされました。
不快以上に喘息などの健康被害が発生し「車紛公害」と呼ばれるまでに。「スパイクまずいんじゃないか?」という声が高まり、各地で規制する条例ができました。スパイクはやめ、スタッドレスタイヤにせよ、と。
その時を思い出すと不思議です。自分自身被害を受けていながら、それまでと違うことをしなくてはいけないのが、迷惑で不満に感じたのです。「無理無理、絶対すべるよ。何で?いやだなあ」。運転が下手な私ばかりではなく、たいていの人は不平たらたら。
それほど被害を受けていながら、現状を変えるのはイヤという、ある意味では加害的な気持ちを持つのは、我ながら意外でした。
しかし、それから30年ちかく。私は、スリップ事故を起こすこともなく、白い雪の街を眺めています。鼻をかんでも真っ黒にならないし、イガイガがコンタクトに入って苦しむこともありません。
健康や環境からの、いわばキレイごとなのに「やったらできた」こともあったのを思い出してみて下さい。