巣立ちの季節

掲載日:2016.06.25

今頃の季節になると、思い出す事があります。朝、出社すると現場監督のAさんが屋根から落ちた、と社内が騒然としていました。詳細がわからないので、みんな心配しながらも釈然としません。「何で?」

ベテランのAさんが、さほど急でない屋根から落ちたというのも不思議でしたが、引き渡し直前の完成した住宅の屋根に上がった理由がわかりません。検査も済んでいました。足跡なぞつけたら、困るだけですし。

それはこうでした。早朝に見回りに行くと、屋根の上で動いている小さなものが。近づいてみるとそれはスズメの子供。どうやら、屋根の板金の折り目の細いすき間に小さな脚がはさまって抜けないらしい。

スズメ付きで建物を引き渡す訳にはいきません。ましてやスズメの死体付きはいけません。車から梯子を降ろして救出に向かったのですが、半狂乱のチビが暴れるので、ついバランスを崩してしまった、と。骨折した片手を吊った本人が語っていきました。

初夏の頃、スズメの雛は巣立ちの時を迎えます。巣立ちというと成長した若者スズメが大空へ飛び立っていくように思いますが、じつはスズメは、かなり幼い状態で巣を離れるのだそうです。飛ぶ事もままならない、くちばしの黄色い子たちが、まるで巣から落ちるようにして、巣を離れてしまうことも多いとか。

地面に落ちてしまったまだ充分飛べないヒナに、親はエサを運んでやりながら、飛び方を教えます。たよりないヒナは、草むらなどに隠れて親を待ちながら数日を過ごします。運がよければ、飛べるようになるのでしょう。

地面にいるスズメの子供を、むやみに持ってきてはいけない、と言われるのは、このような親スズメが世話をしている可能性があるからです。

巣立ちはスズメの一生の中で、最も危険に満ちた期間かもしれません。人間の家の板金にはさまらず、煙突からストーブに墜落せず、窓から飛び込こんで室内に衝突せず、無事大人のスズメになれますように。