イタヤカエデはなぜ自ら幹を枯らすのか

掲載日:2018.05.09

図書館で、この長いタイトルに惹かれて、本を手に取ってしまいました。日本の森で見られる代表的な樹木36種について、特徴と生き残るための戦略を解説した本ということです。

その章だけ、ちょっと拾い読みしようと思ったのですが、樹種ごとに短く戦略を並べた目次が面白くて、書架の間でいきなり読み始めてしまった私。

ちなみにその戦略。忍耐と堅実/その場を死守せよ/目を覚ました野生/逆境こそチャンス/冬を過ごす知恵/競わない生き方/森の再生を担う/個体差で生き延びよ/古くて悪いか/倒れゆく帝国/もてなしの達人/スタートダッシュで逃げきれ/水辺に大きく育つ/陰陽を使い分ける/空室あります/増えすぎた孫悟空/少数精鋭主義/七度倒れても/守りに徹する/懐の深さ/雪に笑う/撹乱に乗じる/倒産しない経営哲学/一億年を生き延びる/空を見上げる旅人/団塊の世代/長寿でチャンスをつかむ/圧倒する数の力/逆転の方程式/氷河期の落人/荒れ地に輝く/空白を制する/しなやかな生き方/低木の強さ/重圧に挑むで35種。

そしてタイトルになっている「イタヤカエデ/どこまで無駄を削れるか」です。

森の中で、イタヤカエデは高木より下、あまり日当りがよくない部分で生きることを選択しました。少ない日照を効率よく取り入れるために、枝張は水平に、葉の形は重ならないように切れ込みが入った手の平型なのだそうです。葉が無駄に大きく厚くなると維持にエネルギーを使うので、スリムで可憐な葉なのです。

得る太陽エネルギーが多くはないので、葉を更新する余裕はありません。1年の始めに出揃った出た葉が、全員でフル稼働し、秋に落葉するまで働き続けます。

その種子は暗い森の中でも発芽しますが、日があたらないと光合成が出来ないので、小さなままで10年以上もじっとしてるそう。条件に変化がなければ、やがて稚樹は枯れてしまいます。でもそれは実は、地上部をリストラして維持のためのエネルギー消費を減らす作戦なのだとか。土の中で根が生きていて、再び芽を出す機会を待っているのです。

イタヤカエデは建築用材としては、フローリングや家具に使われています。短くイタヤとかメープルと呼ばれていることもあります。堅くて、ほんのりオレンジ色がかった優しい色味です。

横に広がる木の形もきれいで、庭木にもおすすめです。

☆渡辺 一夫
『イタヤカエデはなぜ自ら幹を枯らすのか
 樹木の個性と生き残り戦略』 築地書館 2009年