床下の小人たち

掲載日:2010.05.25

『床下の小人たち』はこの夏公開のスタジオジブリの映画『借りぐらしのアリエッティ』の原作です。
イギリスが舞台の原作も、ぜひ読んでみて下さい。
 
20世紀のはじめの英国の田舎。古い屋敷の床下に両親と14才の娘アリエッティの小人の一家が住んでいます。彼らは生活に必要なものをすべて人間から《借りて》暮らしています。

縞柄の壁紙は古い手紙、カーペットはピンクのすいとり紙、暖炉は機械の歯車。腰掛けているのは糸巻きで、テーブルは薬の木箱。お茶の時間には、銀貨のお皿で薄く切ってバターをつけたクリやあぶった乾ブドウをいただきます。お湯やガスも床下を通る管に小さな穴をあけて《借りて》います。

それほど人間の近くで生きながら、彼らの最大のタブーは人間に《見られる》こと。しかし、外の世界にあこがれるアリエッティが人間の男の子に接近したことから危険がせまり、一家の移住の旅が始まります。
苦難を勇気と知恵と家族の力で切り開く冒険がテーマですが、居心地よく安らげる我が家探しの物語とも読むこともできます。

ファンタジーではあるけれど魔法は登場せず、自然や建物が正確に描かれていて、英国の住宅や田園生活を知るのによい教科書でもあります。

私はこの本と小学校の図書室で出会いましたが、大人になってからも時々引っ張り出して、英国の住宅の空気にひたっています。
マントルピース、たるき、寄せ木細工、木ずりと漆喰、(今やなじんだ)ミツロウのにおいのする床板など、未知の建物の文化に、昭和30年代の小学生は相当戸惑ったものでした。

残念ながらアーキビジョンの家には床下がありません。あらわし壁では「見られずに」壁の中を移動できないし。でも快適さに魅せられて、住みついた小人の家族はいるかもしれませんね。
彼らは不屈の我が家探しチームですから。

『床下の小人たち』(メアリー・ノートン作/林容吉訳/岩波少年文庫/714円)