バラガンの手摺

掲載日:2016.08.25

階段の手摺の設計に悩んでいます。その住宅の手摺は、いかにも安全のために手摺つけました、とか見せ場なのでデザイン凝りました、という風ではなく、あっさり何でもないように見せたいな、と野望を抱いて(!^^)。

凡庸な設計者は、そんな困った時には写真集や建築雑誌を眺めて、インスピレーションの棚ぼたを祈ったり、現実逃避したりします。確かあの有名住宅の美しい階段の手摺が、そんな趣だったっけ。大好きな建築家、ルイス・バラガンの自邸。

バラガン(1902 -1988)はメキシコの建築家です。その土地の自然素材を使って、独創的に水や光を扱った静けさに溢れた住宅を設計しました。建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を1980年に受賞しています。

本棚をあさると、写真集と古い雑誌が見つかりました。ちょっと、どきどきしながら、新しい写真集のページを開きます。

あれ?驚いたことに、階段に手摺がありません。他の住宅と勘違いして記憶していたのでしょうか。

でも、このピンク色の壁と踊り場の金色のパネルは、間違いなく自邸なのですが。狐につままれた気分。

ふと隣のページに目をやると、小さな同じような写真。ピンク色の壁と階段がほぼ同じアングルです。何と手摺があります。

写真の解説によると、この家で亡くなった彼の晩年に手摺が取り付けられたのだそうです。私が覚えていた古い雑誌の写真は、その頃だったのでしょうか。彼の死後、最初の設計に戻す意味で、手摺が取り払われたようです。

よくよく写真を見ると、ざっくりとしたいい手摺です。ちょうどいい太さの木が、すっと浮いているように見えます。自身かあるいは彼を敬愛するスタッフが設計したはずですから、残っていてもよかったような気も。手摺があっても無くても、偉大な建築には関係ないし、と思った私でした。

ちなみにこの住宅は現在、世界遺産に登録されているそうです。(私の懸案の手摺は明日に持ち越し~)